BOOK 「今ここに、死と不死を見る」著者:ダグラス・E・ハーディング、訳:高木悠鼓(ゆうこ)


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◉訳者あとがき
たまたま読んでいた本に、ハーディング氏のOn Having No Headの本の一章が、「頭のない私」というタイトルで掲載してあった。それまでも、多くの精神世界の本、覚醒したと言われている人たちの本を読んできたが、「私の本質とは何か」について、彼のように語った人、また彼のようなアプローチを提出した人には出会ったことがなかったので、その文章の内容は私をとても驚かせた。
そして、この文章を書いたハーディングという人がどんな人なのかどうしても知りたくなって、調べた結果、彼は今世紀の初めに生まれたイギリス人で、他にも何冊かの著書があるということだった。
出版されている本をすべて手に入れて読むと、今まで自分語った誤解していたことやあいまいであったことがずいぶんと明確になり、そのおかげで、精神的・霊的重荷の多くを捨てることができたのである。
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たとえば私は長い間、いわゆる「覚醒する」とか「悟る」ということは、特定の個人がそれなりに努力するか、あるいはよく言われるように、努力のあと努力を落とすことによって、達成されるというような観念を持っていた。しかし、彼の本を読んでようやく、特定の「私」や「あなた」が覚醒したり、悟ったりすることはありえず、この世界に覚醒しているもの、悟っているものがあるとすれば、それはこの宇宙そのもの、あるいは彼の言葉を借りれば、第一人称単数現在だけ(だからこそ逆に、すべての存在はすでに覚醒していることが、究極の真実なのである)であるということが、ようやく確信できたのである。そして、どんな瞑想やワークをしても、そのことによって自分の本質が変わったりするわけではないとわかって、逆にどんな瞑想もワークも気楽で、楽しいと思えるようになった。
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ダグラス・ハーディングは本当に偉大な人であるのだが、導師(グル)、マスター、先生、指導者であること、そして、固定した組織を一切嫌って、友人ダグラスとして人々と親しく交流することを何よりも愛している。
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本書をお読みいただいた読者の感想は、、、。
私も以前やはり、「あなたの言う通りに見えますが、でもそうは感じません」と言ったことがあった。それに対するハーディング氏の答えは、「自分の本質とは明確に見るためにあり、あなたが明確に見ているかぎり、感じたり、感じなかったりすることは問題ではない」というものである。しかし、しかし、読者の方々には、この平凡にして至高の実用的効果(ハーディング氏も本書の中で詳しく述べているが)を知りたい方も多いと思うので、私のささやかな経験を以下に書いてみよう。
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まず第一の効果は、鏡の中にいる人物と自分の本質を明確に区別できるようになり、鏡の中にいる人について深刻に考えなくなったことである。自分の究極の本質がすべての存在に共通する空であるとわかれば、他人と自分を比べるという観念がなくなり、必要なら(ちょうど劇場で役を演じるように)鏡の向こうにいる自分にどんな役割やイメージを与えて自由に遊ばせてもいいし、また自分の愚かさも欠点も素直に受け入れることができる。
そして第二に、外部世界に対して緊張が少なくなり、(なぜなら、本当は外部などなく、すべて内部であるから)、すべてはあれでもいいし、これでもいいという気持ちになれること。
第三に、あらゆるテクニックを超えた「無知のテクニック」というべきものを、瞬間瞬間信頼できるようになったことである。彼のいうようにいったん自分の本質を見てしまえばば、必要なものは自らやって来るというわけである。
特に本書に関して言えば、序文でラム・ダス氏が言っているように、ハーディング氏はほとんど読者にも彼ら(神とハーディング氏)の最高のユーモアとこの平凡にして至高の真理の楽しさ・実用性が伝わることを願っている。
ハーディング氏ご夫婦には、「この本はあなたの本でもあるから、好きなように訳すように」という励ましの言葉をいただきました。
1997年3月 (たかきゆうこ)

2020/10/10

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